ブログ担当の、通関士/EPA関税認定アドバイザーの中川です。
日々の業務や、経験したことを通して、”通関””貿易”の世界を、分かりやすく紹介したいと思います。
堅苦しいイメージから、もっと身近で、興味をもってもらえればと思います。
奥深い通関・貿易の世界。その沼に皆さんもハマりますよ。
名古屋支店 通関部 部長 中川和人
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2026年03月26日(木)
通関士ニュース
AI時代だからこそ問われる、通関士の役割【後編】
AIマッチョマン


前回の記事では、AIと通関士の関係について、「情報を整理するのはAI、判断と責任を担うのは人」という視点でお話ししました。
今回はその後編として、実務の中で通関士がどのようにAIと向き合っているのか、派手ではない、現場に即した話をしたいと思います。

情報は整っても、判断が不要になるわけではない
輸入実務を取り巻く環境は、年々整備が進んでいます。
EPAやRCEPといった制度もその一つで、条件が合えば関税面でのメリットを受けられるケースも増えてきました。

AIを使えば、
・どの協定が該当しそうか
・税率はどの程度か

といった情報を、比較的簡単に確認することができます。
ただ、実務の現場では、「制度が使えるかどうか」だけで話が完結することはありません。

・書類に不備はないか
・書類と原産地証明書(C/O)の整合性に問題はないか

こうした点を踏まえながら、慎重に確認していく必要があります。

「提案」というより、「AIと一緒に整理する」
通関士が行っていることは、必ずしも積極的な提案やコンサルティングではありません。
実際には、

・書類上、誤解を招きそうな部分はないか
・将来、税関から説明を求められたときに説明できるか

といった点を、一つずつ整理していく作業に近いです。
AIは選択肢を示します。
通関士は、その中から「今回の申告案件に当てはまるものか。また最適な方策であるか」を確認します。
特別なことをしているわけではありませんが、こうした確認を怠らないことが、結果的にトラブルを避けることにつながります。

AIと通関士の、現実的な関係
これから先、AIはさらに進化し、通関業務での活用範囲も広がっていくと思います。
それでも、

・AIに判断を任せきらない
・AIが提示した内容をよく理解したうえで使う
・責任の所在を曖昧にしない

この点は変わりません。
AIを活用しつつ、必要な確認は人が行う。
その積み重ねが、実務を安定させると私は考えています。
派手さはありませんが、だからこそ長く続けられるやり方でもあります。
AIと通関士との関係には、きっと、より良い未来が待っていると思います。


2026年03月12日(木)
通関士ニュース
AI時代だからこそ問われる、通関士の役割【前編】
ミッションインポッシブル


今回は、「通関士とAI」をテーマに、2回に分けてお話ししたいと思います。
最近の国際情勢を見ると、中東を中心に緊張感の高いニュースが続いています。
AI技術についてもその利用をめぐり、安全保障の観点から、アンソロピック社など、企業活動にまで影響が及ぶ事例が報じられるようになりました。
こうした動きを見ていると、かつては映画『ターミネーター』や『ミッション:インポッシブル』の中の世界だと思われていた話が、決して遠いものではなくなってきている──そんな印象を受けます。
当社においても、AIはすでに日常的な存在です。
※ 当社は、有償版のAI導入にあたり、2024年9月に社員向けに、リテラシー研修を実施しています。
そして通関士にとっても、AIは「無視できない技術」ではなく、実務を支える道具の一つになっています。

AIは「判断する存在」ではない
現在、HSコードの候補抽出や書類内容の整理など、AIは業務のさまざまな場面で活用されています。
大量の過去データを瞬時に処理できる点は、人間にはない大きな強みです。
ただし、通関士の仕事は、AIの出した答えをそのまま採用すればいい。というものでは決してありません。
通関士は、商品を実際に手にとって判断することは稀です。
インボイス、パッキングリスト、仕様書、製造工程資料など、書面上の情報を読み解き、その内容に整合性があるかを確認しています。
AIは「一般的な答え」を示してくれます。
しかし、その判断が今回の貨物にとって本当に妥当かどうか──
最終的に確認し、責任を負うのは人です。

なぜ通関には「人」が必要なのか
通関の現場では、必ずしも答えが一つに定まらないケースが少なくありません。
法令や通達、過去の扱い、税関の対応を踏まえながら、「いま最適な判断」を探る必要があります。
AIは過去のデータを学習することは得意です。
しかし、解釈の変化や個々の事情までは、完全には読み取れません。
だからこそ私たちは、AIを通関士の代わりではなく、判断をサポートする存在として位置づけています。
AIの結果を起点に、通関士が確認し、裏付けを取り、必要に応じて修正する。
この過程を省かないことが、結果的にリスクの低減や、不要なトラブルを避けることにつながります。

AI時代に、通関士が担うもの
技術が進歩し、世界が不安定になる今だからこそ、「誰が判断し、誰が責任を負うのか」は、より重要なテーマになっていると思います。
私はAIを否定しません。同時に、AIに全てを委ねることもしません。
情報を整理するのはAI、判断し責任を負うのは人。
それが、これからの通関実務に大切なことだと考えています。
次回も、「AI時代における、通関士の役割」について、お話ししたいと思います。


2026年02月26日(木)
通関士ニュース
【第2回目:イタリア生地のHSコードを特定しよう!】
イタリア生地


ミラノ・コルティナ冬季オリンピックが閉幕しました。
感動をありがとう!という感じです。次の話題はWBC でしょうか。
さて、前回はHSコードの基本についてお話ししました。
今回は、実際の輸入事例として「イタリア産のウール100%生地」を例に、どのようにHSコードを特定していくか見ていきましょう。

イタリアの文化とファッション
イタリアといえば、オペラやグルメ、そして世界をリードするファッションを思い浮かべます。
私は職業柄、スーツを着用しています。仕立て映えのするイタリア生地は、非常に魅力的です。
ロロ・ピアーナ、ゼニア、カノニコ、レダ等々、憧れの生地ブランドがあります。
色艶が良く、手触りも滑らか。生地自体も高価ですが、番手が細くデリケートな素材の為、縫製できる工場が限られ、自ずとスーツの価格も高くなります。
こうした素敵な生地を日本へ輸入する際、最初に行う重要な作業がHSコードの特定です。

生地のHSコードを特定するには
主に以下の情報を正確に把握する必要があります。

1. 素材(混率): 何からできているか(ウール、綿、ポリエステル等と、その比率)
2. 製法: 織物か、編物(ニット)か
3. 仕様: 糸の種類や、1平米あたりの重さ(目付)はどれくらいか

具体的な分類のプロセス
HSコードは、「実行関税率表」に沿って特定していくことになります。
今回の事例である「ウール100%の生地(織物)」の場合、まずは第51類(羊毛、繊獣毛……)に分類されます。
ここからさらに、糸の種類によって細かく枝分かれしていきます。

紡毛(ぼうもう)織物: 短い繊維を紡いだ、ふっくらと厚みのある生地。
梳毛(そもう)織物: 長い繊維を揃えて紡いだ、スーツに使われるような滑らかで光沢のある生地。

今回は梳毛糸の織物とすることで、梳毛織物51.12項まで特定できます。
目付が200グラムを超えるものとした場合、5112.19号まで特定することができます。
6桁のHSコードは世界共通ですので、他の国でも原則このHSコードが特定されることになります。
尚、日本で申告する場合、5112.19-020の9桁まで採番することになります。

※HSコードは輸入国が判断するものが優先されます。
今回の事例は比較的容易ですが、貨物によっては、日本と他国で解釈が異なる場合があります。
日本から輸出の場合、輸入先でのHSコード(=関税率)が見積もりと違う可能性もあり、注意が必要です。

まとめ
今回は、イタリア生地を例に、「梳毛(そもう)」や「目付(重さ)」といった詳細な情報がHSコード分類にどう影響するかをみてみました。
一見同じような生地でも、細かな条件の違いでHSコード(=関税率)が変わることがあります。
スムーズな通関には、貨物情報を正しく理解することが大切です。
ちなみに、上記の条件で、ジェミニ(グーグル AI)に質問したところ、同じHSコードを回答しました。
やりますねぇ。
次回は、通関士とAIについて述べていきたいと思います。


2026年02月12日(木)
通関士ニュース
【第1回目:HSコードって何?】
HSコード


ミラノ・コルティナ冬季オリンピックが開催されています。(2026年2月6日~2月22日)
開会式のテーマは、「Armonia(アルモニア/調和・ハーモニー)」との事です。
分断と憎しみを耳にする最近の世界にとって、団結と他者へのリスペクトが見てとれるオリンピックは、共感するものがあります。
日本勢のフィギュアスケート団体での、チーム一丸となって励まし、喜びあう姿は、感慨深いものがありました。
さて、今回は、HSコードについてご説明していきます。
貿易を行うにあたって”HSコード”はとても重要なワードです。
今回は、オリンピックが開催されているイタリアから、生地を輸入した場合の例もあげ、2回に分けてご説明したいと思います。

HSコードは「世界の共通言語」
貿易の世界では、日々膨大な種類の「モノ」が国境を越えています。車、機械、衣類、そして「生地」……。
これらを言葉だけで説明しようとすると、国や言語によって解釈が分かれてしまい、正確な統計や関税の計算ができません。
そこで考案されたのが、あらゆる「モノ」を数字で表す世界共通のルール、HSコード(Harmonized System Code)です。
ベルギーのブリュッセルに本部を置く、世界税関機構(WCO)が管理しており、現在では世界のほとんどの国がこのシステムを採用しています。

数字の並びには意味がある
HSコードは最大10桁程度の数字で構成されますが、実は6桁までが世界共通です。

1〜2桁目(類): 大きなカテゴリー(例:51類は羊毛など)
3〜4桁目(項): 中カテゴリー
5〜6桁目(号): 小カテゴリー

6桁まではどの国でも同じものを指すため、まさに「貿易の共通言語」と言えます。
7桁目以降は、各国の統計や関税率の設定のために独自に定められた数字(日本では9桁となり「統計品目番号」と呼びます)が続きます。

なぜHSコードが重要なのか?
申告時に、このコードを間違えると大変なことになります。
HSコードによって、「いくら関税がかかるか(関税率)」や、「輸出入する際に特別な許可が必要か(他法令)」が決まるからです。
もし間違ったコードで申告してしまうと、税金の過不足が生じたり、最悪の場合は通関がストップして貨物が届かない……というトラブルにも繋がりかねません。
関税の支払いは輸入者です。我々にとってのお客様です。また、我々がお客様の貨物全てに精通していないのも事実です。
トラブルを防ぎ、お客様にご迷惑をかけないためにも、HSコード採番の為の、詳細な貨物情報が必要になってくるのです。
次回は、具体的な事例として「イタリア産のウール100%生地」を輸入する場合、どのようにHSコードが決まるのか、その「パズルの解き方」をご紹介します。


2026年01月30日(金)
通関士ニュース
「原産地証明書(C/O)」って何?EPAのキホンを解説!
certificate of origin


前回、RCEP(地域的な包括的経済連携協定)についてお話ししました。
現在、日本は様々な国や地域とEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)といった国際的な取り決めを結んでおり、その数は広がりを見せています。
これらの協定を活用する上で非常に重要なキーワードが、今回ご紹介する「原産地証明書(C/O)」です。
前回のブログでは触れておりませんでしたので、今回はこの重要な書類について解説していきます。
HSコードについては次回ご説明することとして、早速本題に入りましょう。

原産地証明書(Certificate of Origin - C/O)とは?
原産地証明書(C/O)は、輸出入される貨物が特定の国や地域で完全に生産、製造、または加工されたことを証明する書類です。
いわば、貨物の「国籍」を証明する重要な書類と言えます。

なぜ必要なの?メリットは?
主な目的は、EPA等の国際協定を利用して、輸入時の関税の優遇措置(減税または免税)を受けるためです。
その貨物が協定の対象となる「原産品」であることを税関に証明するために、この証明書が必要となります。
※ 原産地証明書(C/O)は、原産地規則・品目別規則といったルールを満たしている必要があります。
※ 輸入者は、税関から原産地証明書の内容に関して、説明を求められる場合があります。

最大のメリットは、原産地証明書を輸入国の税関に提出することで、通常よりも低い協定税率(EPA税率)が適用され、結果としてコスト削減につながる点です。
ただし、「例外」もあります。例えば、課税価格が20万円以下の場合や、物品の性質・形状から原産地が明らかな場合など、一部提出が不要となるケースもあります。
(出典:税関 カスタムスアンサー「1502 特定原産地証明書について」。及び、関税法基本通達68-5-7より。)

誰が発行するの?
原産地証明書には、いくつかの種類と発行方法があります。
・第三者証明制度:日本国内では、商工会議所が、輸出者の申請を受け発行します。
・自己証明制度:RCEPやCPTPPなど一部のEPAでは、協定の締約国の輸出者や輸入者自身が原産性を証明できる「自己証明制度」も導入されています。
・認定輸出者制度:RCEPなど一部のEPAでは、当局より「認定輸出者」としての認定を受けることで、自ら原産地申告書(第二種特定原産地証明書)を作成できます。
日本に輸入される貨物に対しては、輸出者が現地の発給機関に申請し、発行されるのが一般的です。

まとめ
今回は、EPA(経済連携協定)を活用する上で欠かせない「原産地証明書(C/O)」について解説しました。
・C/Oは、貨物の「国籍」を証明する重要な書類です。
・最大の目的は、輸入国での関税優遇措置(減税・免税)を受けることで、コスト削減に直結します。
・発行方法は「第三者証明制度」(商工会議所)と、RCEPなどで導入されている「自己証明制度」「認定輸出者制度」があります。
適切に原産地証明書を活用することで、スムーズかつコスト効率の良い貿易が可能になります。

※我々のような通関業者が、代理で商工会議所に申請したり、自己証明書を作成することはできません。
次回は、原産品判定の基礎となる、「HSコード」について詳しくご説明します。
HSコードは通関業務において非常に重要な分類コードですので、ぜひご覧ください!


2026年01月19日(月)
通関士ニュース
RCEP(地域的な包括的経済連携)を利用してみたい!
RCEP2


明けましておめでとうございます。
新年早々、ベネズエラやグリーンランドに関するニュースが入り、米国の孤立主義的な動きが注目されます。
今回は、その考えとは逆の思考ともいえる、RCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership=地域的な包括的経済連携)について、お話ししたと思います。
RCEP(アールセップと呼びます)は、以前ご説明した通り、非常に大きな経済圏を擁する経済連携協定です。

RCEP締約国は何か国?
2026年1月現在での締約国は、以下の15カ国です。
ASEAN加盟国(10カ国): ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム。
ASEAN以外(5カ国): 日本、オーストラリア、ニュージーランド、中国、韓国。
日本にとって、非常に意義深いのが、中国、韓国との初めてのEPA(経済連携協定)だということです。
※ 2025年12/11の当ブログでもご紹介しましたが、日本にとって最大の貿易パートナーは中国です。

また、RCEP以外のEPAは、締約国以外の主原料を用いた場合(第三国原料)適用が認められませんが、RCEPの場合、締約国以外の主原料を使用しても適用できる点がユニークです。

具体的な事例
実は私、20年ほどアパレル業界におり、転職後の現在も、アパレル輸入業務を扱う機会が多いです。そこで、アパレル商品について事例を挙げてみます。
ベトナムで女性用ジャケット(HSコード6204.33)を生産し、日本に輸入するケースで、関税率の事例をあげます。

事例1 日本製の布帛生地を主原料として生産した場合。
・日ベトナムEPA→関税率はFREE(0%)
・RCEP→関税率はFREE(0%)

事例2 中国製の布帛生地を主原料として生産した場合。
・日ベトナムEPA→中国製生地を使用しており適用不可→その為、協定税率(関税率)9.1%
・RCEP→適用可能。関税率はFREE(0%)

事例3 台湾製の布帛生地を主原料として生産した場合。
・日ベトナムEPA→台湾製生地を使用しており適用不可→協定税率(関税率)9.1%
・RCEP→適用可能。関税率はFREE(0%)

※今回はブログ用に簡略した例をあげています。協定ごとに、原産地規則・品目別規則といったルールが定められており、それらを満たしたケースであることを前提にしています。
全てを網羅する例ではなく、個別案件は必ず専門業者にご相談ください。

※日ベトナムEPAは、RCEP以外の、日本とベトナム間で締結されているEPAです。
※どのEPAも適用せずに、HSコード6204.33を日本へ輸入した場合→協定税率(関税率)9.1%です。

まとめ
上記のように、生産背景によって、それに適したEPAを利用することにより、輸入関税の最適化を行う事が可能です。
同じRCEPであっても、輸出国が中国・韓国・それ以外では、日本での税率や、適用できないHSコードがあり、注意が必要です。
また、RCEPは年度ごとに税率が下がる”ステージング方式”をとっていますので、そのあたりも留意する必要があります。
※ステージング方式=特定の品目について関税を即座に撤廃するのではなく、数年間にわたって段階的に引き下げていくスケジュールの事。
RCEPを利用したいとお考えの方は、事前に我々のような専門業者にご相談されることをお勧めいたします。
如何だったでしょうか?

関税率を見る場合、基礎になるのは、HSコード。税番です。
ではこのHSコードとは何でしょうか。
次回は、HSコード・税番についてご説明したいと思います。